「LT会」中国商务栏目(第1回)(2017-03-01)
 2019 06 05 |閲覧数:1216

内部統制を強化しない限り、中国事業の成功は望めない ~内部統制強化によるコスト削減の勧め~ 

この度、LT グループ CEO 郁偉は日ごろの仕事で感じた日系企業の内部管理の問題点を皆様に共有させて頂く目的で、2017 年 3 月よりウエネーバー江蘇版に中国ビジネスコラムを執筆することになりましたので、会員の皆様にも転送させて頂きます。

現在、中国に進出している日本企業は1万社以上(中国統計による登記企業数は2万社以上)とも言われている。また、中国の二桁の高度経済成長の時代も終止符を打ち、年々6%半ばの低空飛行の経済成長に変わった。低成長の経済環境下、外国企業の中国での事業展開も、誰もが高収益を享受できる時代は過去り、様々な要因により事業不振に喘ぐ企業も少なくないと推測される。中国での事業収益が伸び悩み、会社運営で問題多発の根本的な原因の一つとして性急な人材の現地化が挙げられる。経営トップが日本人駐在員のコスト削減を目的に、内部統制の管理体制を構築せず、日本の性善説のままで無責任に現地人材の登用を進めた結果、内部不正が多発するようになった。近年、外国企業の中国での事業規模が拡大し、一歩間違うと日本本社に致命的な打撃を与えるような重大な事件が頻繁に発生している。2013 年以降、内部不正が原因で本社に大きな打撃を与えた重大事件として以下の事例がよく知られている。2013 年6月、中国警察が旅行業務の実態がないとある旅行会社が毎年億元以上の売上を計上していた疑惑を捜査したところ、世界的な有名な英国製薬メーカーであるグラクソ・スミスクライン社(GSK)の中国現地法人の名前が浮上した。GSK 中国はこの旅行会社に慰安旅行や製薬会社向け研修

旅行などの架空の旅行業務を大量発注して旅行代金を支払い、旅行会社から巨額の裏金を受取っていた。その後中国警察は GSK 中国に対する強制捜査を実施した。2014 年 9 月、中国湖南省長沙市の中級人民法院は確定した同社の贈収賄金額が 30 億元(1 元=17 円で換算 510 億円)以上であり、新薬の許認可と薬品価格の吊上げの為に中国の管理監督当局の高官や医者などに巨額の現金をばら撒いた刑事事件として判決を下した。GSK 中国の法定代表者英国人は執行猶予付きの 3 年実刑判決を受け、中国政府は同法人に対して中国史上最大の 30 億元という驚愕の罰金を科し、同社は即納した。


2015 年 5 月、社歴 100 年以上の名門商社で福井県の雄と称された江守商事は、本社が中国の現地法人の不正取引を見ぬけず、最終的に民事再生法申請に追い込まれた。本件も中国人総経理を過信し、中国での売り上げを伸ばす為の架空取引の繰返す総経理に対し、日本本社から何も反対意見を言えなかったことに起因する。当社の内部牽制は全く機能しなかった。この結果、最終的に債権回収不能に陥り、回収不能債権を引き当てたことから、持株会社の江守グループホールディングス(東証一部上場)は債務超過となり、民事再生法を申請、事実上破綻した。日本の大手企業である LIXIL グループの藤森義明社長は 2015 年 6 月 3 日に開いた緊急記者会見では、中国子会社・ジョウユウ(本社・独ハンブルク)の不正会計に絡み、自社の損失が総額 660 億円に上ると発表した。発覚したのは実に深刻な不正だった。4 月 1 日に連結子会社化した水栓金具の中国メーカー、ジョウユウ(本社・独ハンブルク)が、巨額の簿外債務を抱えていると判明。金額は確定していないものの、LIXIL が計上する損失額を上回るというから、700 億円以上の債務を隠していたと推定される。また、売上高や利益の改ざんもあるという。優良企業とされていた同社の実態は債務超過で、5月 22 日にハンブルク裁判所に破産手続きを申立た。

世界及び日本の名門会社はこのような重大事件が頻繁に発生している原因を突詰めていくと、やはり中国現地法人の管理の杜撰さに行きつくのである。日本の本社は「当社はコンプライアンスを重視し、遵守している」などという綺麗事を言うが、要するに中国現地法人で不正行為が蔓延している現実を知らないだけなのである。或いは気付いていても見て見ぬ振りをして無難に過ごし、3年後転勤で無事に帰任できればよしと考える現地トップが少なくないのである。日本大手企業の本社は、毎年中国現地法人の監査を行うが、監査担当者の多くは中国語のコミュニケーション能力が足りないからか、現地担当者に質問しても「このようなやり方や行為が中国の習慣」と一言説明されると納得してしまいそれ以上追及できないようである。その結果「重大な問

題点は見当たらず、良好」という監査判定となる。弊社から見れば、二重のクエスチョンマークを付けてあげたいところである。日本企業の現地トップから「中国での事業経営は難しい」という本音をよく耳にするが、それは

事実であろう。「中国での事業経営が簡単であれば、誰も苦労せずにいい生活ができる。中国事業は難しいからこそやりがいがあるのだ。」という覚悟を持って、真剣に取り組む必要がある。「中国事業には困難が多いから、どのように取組むか、どのように不正を見抜くか、公正・透明・清潔な企業になれるか」を考えるべきなのではないだろうか。弊社ではここ数年、大手から中小企業まで計 100 社以上日系企業の内部統制監査を実施してきた。監査において実際に発見した不正行為の事例を今月からウエネーバーの紙面をお借りして、連続 11回のコラムとして掲載させていただくこととなる。他社の失敗事例を氷山の一角として、読者の皆様が同じ轍を踏まぬようにご注意いただければ、幣社も多少は社会貢献ができるかなと思う次第である。これから一年間お付合い頂ければ、幸甚である。(ウエネーバー江蘇版 2017 年 3 月号に掲載) 

以上